リンカーン日誌

或る量的遺伝学者のテニュア取得までへの道

産業動物におけるMeSHエンリッチメント解析

今回は半年近く前に出した論文の紹介です。実は一度過去に近況報告として簡単な箇条書きにて触れていますが、僕たちは年始にMeSHエンリッチメント解析を行うBioconductorパッケージを発表しています。MeSHとはMedical Subject Headingsの略でアメリカ国立医学図書館が管理している包括的な生命科学用語集です。

身近な例としては、PubMedで閲覧可能な論文をインデックスする際に用いられています。このようにMeSHは本来PubMed論文に対応付けられているのですが、PubMed論文を介して多様な生物種の遺伝子と結びつけてみたのが上に挙げた僕たちの仕事です。エンリッチメント解析としてはGene Ontology(GO)が有名ですが、GOエンリッチメント解析と同じ考えでMeSHを用いたエンリッチメント解析を試みています。

今までMeSHエンリッチメント解析はヒトやモデル生物を中心に研究が発表されてきました。上記論文中ではラットと緑膿菌を例に説明していますが、僕たちが開発したソフトウェアはおそらく初めて畜産動物にも対応しています。そこで代表的な産業動物であるウシ、ブタ、ウマに焦点を当ててMeSHエンリッチメント解析を応用したのが今回取り上げたい論文です。この論文中ではGO解析と組み合わすことにより、MeSH解析が新たな情報・知見をもたらす可能性があることを強調しています。またオープン・アクセスなので何処からでも読めるはずです(しかしWileyが請求するオープン・アクセス費用の$3000は高すぎでしょう)。

フロリダで開催されたJAM2015ではこの話題で口頭発表をしました。さらに乳牛のデータに対してすでにMeSHエンリッチメント解析を応用してくれていた発表者にも会うことができました。これを機にMeSHエンリッチメント解析が有用なのであればどのような場面で実際に役立つのか、逆にまだ実用上あまり使えないのであればどうすれば向上するか等、動物遺伝学界隈でも議論が活発に始まってくれたらなと考えています。